(あやこの髪の匂い、すごいすき) 珍しく毎週観ていた連続ドラマのさわやかな最終回を観たら、エンディングが切ないわけでもないのに何故だかいわれもなく寂しくなった。梅雨時の湿気が部屋を満たしていた。泣けもしないので、バナナとバニラアイスと牛乳と氷を適当に入れてシェイクを作った。冷たいそれはごくごくとあたしののどを鳴らした。


(いい匂いだよね。) 別にいまさらかなしいとは思わない。別れを告げたのはあちらからで、それは突然のことで、翌日は一日中泣いた。誘い出してくれた友達と一緒に泣きもした。未練ばりばりだったけど、もう一ヶ月も経ったのだ。最初の頃は無理してきれいになろうとか新しいひと見つけようとか思って、メイクを変えたり格好いい人にアタックしてもみた。けれど今となってはそれをするのですら馬鹿馬鹿しい心持ちだ。せっかく減った体重も今では逆戻りしてしまったし、と思ってみる。


(ちがうよ、あやこだからいい匂いなの) 音もなく降る雨が、街を濡らしていく。そんな歌があった気がする。日曜。なにをするでもない。ぼんやりと思いだせる彼の顔も、今となっては夢にも出てこない。絆の重さが朧になっていく。出かけようか、しかし雨だ、などと逡巡している。するとタイミングよく友達から誘いのメールが来た。先週買った新しいワンピースを着て、すこしだけ濃いメイクをするためポーチを開ける。





「もう、ぜんぜん未練はない?」
「んーどうかなあ。けど、連絡とってないし、前向かなきゃさ」
「つよいなあ」
「いやーあはは」


自分では強いというよりも忘れっぽいと思うのだけれど、まあそう思われているならそれでもいい。ほんとうはすこしだけ、まだ痛みがあるから愛しいと思っているのだけれど、それもじきになくなるだろう。わたしは、つよいから。そう思って、笑う。 そのワンピース、かわいいね。褒められて、うれしくなる。わたしは、かわいいのだろうか。いつかまたあのひとに会った時に、後悔させられるほどかわいくなりたい、と思った。
友達と携帯で写真を撮ろうと顔を近づけると、ふいに彼女が、あやこの髪の毛いいにおーい、とうっとり言った。つい先日リンスを換えたから、そのせいだよとにっこり返して、ボタンを押した。









(062208.)