春の夜
ぼうっとしていたくなる
なにかに満たされることのないこの胸を
なにかに急かされることもないこの脳を
それでもただ街を見つめていたくなる
なにかに満たされたいこの胸を
なにかに急かされたいこの脳を
煙草の煙をやわらかな風に乗せて
静かに街を見つめていたくなる


こんな春の夜は
誰かと繋がっていたくなる
その術はある
だがそれをするつもりはない
それほど執着するひともいない
ただ明かりひとつ点けず暗闇に
ぼうっと光る街を見つめていたくなる


そんな春の夜は
今どこでなにをしているかも分からぬ
君のことを想う
一層速く動く雲間から
覗くやわらかな月の光を
愛しく思いながら
触れられるかも判らぬ
君のことをただ、想う


どんな春の夜も
こんな春の夜には敵わない
色とりどりに輝く街を
ただ見つめるばかりの私の
この気持ちには敵わない


こんな春の夜