透きとおった冷たい朝の空気。空は高く、雲はほんの少しだけ。日差しが暖かく て、太陽は偉大だなあと思った、冗談混じりに。チャリのサドルもハンドルもカ ゴも半端なく冷たいけれど、まぁしょうがねえと思えた。さっき飲み下したパン が腹の中でごろごろ唸る。思いっきりペダルを踏み込むと、不思議と痛みは薄れ た。身体の回りを流れる風が冷たい。どんどん進む。


冬のこの、朝の冷たい冬らしい気候が好きだ。これから部活の朝練だけど、気合 い入れなきゃなって思う。このやる気に満ちる瞬間の心臓の大きな鼓動。世界中 の生きるのめんどくせえと思ってる奴に聴かせて回りてえくらい(それこそめん どくせぇな)。今なら飛鳥にも告れそうな気がしてくる。でもきっと実際は目の 前にすると関係ねぇ話ばっかしちまってとても告るどころじゃなくなることもよ うく解ってる。それを考えると、軽くブルーになる。


透明な朝の空気。寒そうに身を縮めるサラリーマンのおっさん。眠そうな小さい 学生(でも服装は大人っぽい)。変なカッコした背の高いやつ。みんな、俺と擦 れ違って行く。当たり前だ。俺が彼らを瞬時に観察していることなど、知らなく てもさして支障は無いんだから。すこし笑えた。でもほんとは全然笑えやしない。


俺は長い下り坂を、ペダルから足を外して、一気に下って行った。頬とか、すげ え寒くて叫びそうになったけど、頭ん中がスカッとした。そこに、やる気がむく むくと沸いて来る。
俺は、今、透明になる。









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